監督:ジョン・シングルトン
アメリカ/2005年/108分
メイフラワー号の聖教徒たちがネイティブ・アメリカンの友と神に感謝したように、育ての母親・マーサーに深く感謝している4人の義兄弟が悪に立ち向かう現代版西部劇。仮に他の作品の銃撃戦を「湖での派手さを狙った海賊ショーのためのハリボテ改造船の航行」だとしたら、この作品のカーチェイスと住宅銃撃戦は「悪天候の外海で数百人の乗客乗員を乗せてエンジントラブルをかかえた客船が海賊の襲撃を受けつつも反撃しながらの航行」だ。
ストーリー(概要)
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アメリカ合衆国、デトロイド。母親を殺された義兄弟4人が黒幕を突き止めて復讐する。
主な登場人物の紹介
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△ボビー
4人兄弟の年長。元ホッケー選手。
△エンジェル
元詐欺師。元海兵隊員。
△ジェリー
元組合の発起人。不動産業に進出を計画。
△ジャック
バンドマン。ゲイ。
△マーサー
老女。4人の兄弟の育ての親。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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メイフラワー号の聖教徒たちがネイティブ・アメリカンの友と神に感謝したように、育ての母親・マーサーに深く感謝している4人の義兄弟が悪に立ち向かう現代版西部劇。仮に他の作品の銃撃戦を「湖での派手さを狙った海賊ショーのためのハリボテ改造船の航行」だとしたら、この作品のカーチェイスと住宅銃撃戦は「悪天候の外海で数百人の乗客乗員を乗せてエンジントラブルをかかえた客船が海賊の襲撃を受けつつも反撃しながらの航行」だ。
■ つかみはOK
町の小さな店でマーサーが強盗に殺されるセットアップだけで、この作品を観るために劇場の椅子に座っている自分の決断が正解だったと思える、そんな作品だ。
第一印象は大事である。いくら人(や物)の内面(内容)がすばらしいからといっても、礼儀や常識を知らない(または無視する)相手とはお近づきになりたいとは思わない。
はじめはつまらないかもしれないけれど我慢して椅子に座って話を聞いていれば、君にとって将来役に立ついろいろなことが学べるはずだ――を言われて、いったい何時間、何十時間、いや何百時間を教室の椅子に座って過ごしてきたことか。たしかに役に立ったことはある。九九の暗算、それに……まぁいろいろだ。
ブルターニュアシュトン·ホームズ今日はどこにあるのでしょうか?
ある人はこんな経験もあろうだろう。この授業は出席簿のチェックだけが単位を与えるかどうかの唯一の要件だということで、出席票に名前を書くだけために大学に通った日々……。
(なかには試験期間中にもかかわらず、写経するページ数が多ければ多いほどよい成績を与えるとした講師もいたとかいないとか……)
実社会ではこうはいかない。たとえ教室があっても、なにもしなければ人は集まらない。人が集まっても興味をひきつつ楽しませる工夫をしなければ話の途中でもみんな帰ってしまうだろう。
何事にも第一印象は大事だ。お笑い芸人グループのダチョウ倶楽部のギャクに「つかみはOK」というのがあるが、まさにそのとおりにいきたいものである。
「フォー・ブラザーズ」のセットアップには、これからはじまる物語に必要なすべてが揃っている。雪が舞う冬。さびれた街デトロイドの低所得者層が住む地区の小さな店。マーサーの車を尾けてきた怪しげな車。武装した強盗。
そしてなにより、万引きしそうになった少年を愛を持って諭すマーサーの人柄を観客に強烈に印象付けることに成功している。もしマーサーの人柄が観客に受け入れられなければ、これから登場する4人の男達がなにをしようと、乱暴な振る舞いにしか感じられなくなってしまうだろうところだ。
■ 血のつながりのない義兄弟
マーサーは身寄りのない子供を世話しては里親を探してあげていた。だがその非行歴のためにどこにも引き取り手のなかった4人の男の子を自分の息子として育てたのだ。兄弟に血のつながりがなく、人種も趣味も外見も違っていた。その4人こそこの作品のメインキャラクターなのだ。
主人公4人が兄弟でありながら人種が違うというのがいい。なぜならデトロイドという土地柄、悪役にされやすいのがアフリカン・アメリカンであるからだ。そういったことで主人公の側にもアフリカン・アメリカンがいるというのは配役のバランスがよくなる。もし、いわゆる白人が主人公で悪者(敵役)が黒人だという設定では、いかにもといったステレオタイプ(紋切り型)な構図になってしまって幅広い観客動員を期待することはむずかしくなる。
「遠くの親戚よりも近くのお隣さん」というわけではないが「血よりも濃い義兄弟の絆」というのは、なにより「響き」がいい。
三国志でも「桃園の誓い」によって義兄弟の杯を交わした劉備、関羽、張飛の3人は血のつながりはないものの、関羽が呉の攻撃によって亡くなったときに劉備は、本来の目的(魏を倒す)達成と逆行することが確実にもかかわらず、自ら大軍を率いて呉を攻めたほどだ。それほど義兄弟の絆は深く、結びつきは強かったのだ。
■ 集団や組織の脆さと、家族や兄弟の強さ
"誰がソ連に戻って歌った?"
〈注:ネタバレあり〉
ジェリーは組合の発起人をやっていたことがあり、団体交渉のエキスパートとも言える。
そもそも人が集まればそこにグループができる。労働者の集まりがストを行うといったように、資本を持たない者は「数」によってその発言力と行動力を確保してきた。
グループは大きくなればなるほど、ひとつにまとまるのが難しい。精神的な結びつきはあまり期待できず、利権・利益といった実益で動くのが集団や組織の基本である。
組織も武器も持たない兄弟たちは、こうした集団や組織のあり方を利用して、圧倒的に不利な状況を一気に逆転させるのだ。
ここで対比・強調されているのは、血のつながりも利害も超えた兄弟・家族の絆の強さである。
■ 兄弟の絆にもコンフリクツ(困難)がある
マーサーの死を調べているうちにエンジェルは、母親マーサーが高額な保険に入っていたことを知る。保険金の受取人は兄弟のジェリーだとわかる。さらに、妻と幼い娘がいるジェリーは不動産事業に失敗して破産していることもわかる。
兄弟達がジェリーに向ける疑惑のまなざし……。一筋縄ではいかないサスペンスの要素によって徐々にマーサーの死の真相が明らかになっていくのである。
そしてジェリーにかけられた疑惑が晴れたとき、いつのまにか武装集団が家を囲んでいた……。
■ 地の足のついた(?)銃撃戦
映画の宣伝(ほとんど宣伝を見聞きしたことはないが)でもこの作品の特徴のひとつである、氷の上を滑りまくりの銃撃カーチェイスや、住宅包囲の蜂の巣ばりの銃撃戦はクローズアップされていない。
それにもかかわらず、近年のアメリカ作品の中でも非常に特徴的かつリアル(実際の銃撃戦を見たことはないが)なカーチェイスと銃撃戦になっている。
夜。吹雪のなかで凍った路面を滑りまくりながらのカーチェイスシーンは「田舎の夜道の暗がり」「吹雪で視界不良」といった「見せない」演出を施しつつ、「滑る」という悪条件にも関わらず、母親殺しの黒幕を突き止めるために追跡を諦めない兄弟達のド根性ぶりをいかんなく発揮した特徴あるシーンに仕上がっている。
映画、ホラー、キャビンフィーバー
そして、兄弟間のわだかまりが解けると同時にまさに息つく隙もなく一気に文字通りの「蜂の巣」のように家を銃撃されるシーンへとなだれ込む。
バンから次々に降りてきた武装集団が、デトロイドの低所得者層が住む住宅街のひとつの家に向けてマシンガンを連射して攻撃するのだ。静かな(寂れた)住宅街の一角が一瞬で戦場に変わる状況が、けっして特別なことではなく、いつでも起こりえるとでもいいたげなこのシーンは、ただ映像的に派手に見せよとする他の作品における銃撃シーンとは一線を画している。仮に他の作品の銃撃戦を「湖での派手さを狙った海賊ショーのためのハリボテ改造船の航行」だとしたら「フォー・ブラザーズ」の住宅銃撃戦は「悪天候の外海で数百人の乗客乗員を乗せてエンジントラブルをかかえた客船が海賊の襲撃を受けつつも反撃しながらの航行」といった具合である。
■ アメリカ社会を映す
監督のジョン・シングルトンは、かつて「ハイヤー・ラーニング」という作品を監督している。この作品は、アメリカのある大学を舞台に、人種差別、同性愛、ネオナチといった問題を取り扱っている。
「フォー・ブラザーズ」においても、人種、犯罪、地域といった問題を取り扱っている。
■ 感謝祭(サンクスギビング)
作品における時期設定は11月の第4土曜日の感謝祭(Thinks giving)前後となっている。家族が集まって七面鳥を焼いて食べるというこの感謝祭は、1620年に聖教徒がメイフラワー号に乗ってイギリスからアメリカ大陸にやってきた人々が、はじめての厳しい冬に食べ物に困ったときにネイティブ・アメリカンに食物や種をもらったので、翌年の11月に彼らを招いて収穫した作物や七面鳥をほふって友人と神に感謝したことに由来している。
家族が集まるサンクスギビングに家族(母親)を失った兄弟たち。その後、さらに次々と親しい者が命を落としていく……。
4人の兄弟たちは引き取り手がなかったのでマーサーが育ててくれた。かつて自動車産業で栄えたが、今はアメリカ中から忘れ去られてしまったかのようなデトロイドの「8mile」南側であろう街でさえ、4人の少年には里親ができなかったのだ。
そんな少年たちに手を差し伸べたマーサーは、まるで新天地アメリカにやってきた聖教徒たちがはじめての厳しい冬に食べ物がなかったときに、食料を分け与えてくれたネイティブアメリカンのようでもある。
母親の葬式のために街に帰ってきた(ジェリーは街に残った)兄弟たちは、育ての母親マーサーになにも感謝の気持ちを表していないことにあらために気づくのだった。世間から見捨てられたかのような街にさえ見捨てられた俺たちに手を差し伸べてくれた母親に恩返ししたいという強く熱い思いが、たとえマーサーがそれを望まないかもしれなくても、殺人の黒幕を突き止めて復讐するという強い決心と行動へとつながるのだ。そのための装置としてのサンクスギビングなのだ。
〈ちなみに8 Mile とは?〉
デトロイト。自動車産業の衰退で退廃的になった都市の北端を走る道路の名前。8 mileの北側は中産階級の白人が住む地区。南側は黒人などの低所得者が住む地区。
「8 Mile」作品レビュー
■ ひとこと
この作品は上映館が少ないこともあり、またテレビ宣伝もおそらく放映していないこともあり、一般的にはまったくといっていいほど話題になっていないようだ。しかし、口コミではかなり評判がいい。
実際よく出来た作品だ。様々なところで言われてることだが、この作品はいわゆる西部劇の構造になっている。具体的にはジョン・ウェインの『エルダー兄弟』のリメイクだ。
クライマックスがどうにもご都合主義っぽいが、そこが愛嬌としていい味にもなっている。
俳優ファン たいして有名な俳優は出ていない
ファミリー 銃撃シーンがあるが、家族・兄弟の絆では「向」
デート 作品を見極める目を持っていると思われて株UP
フラっと 思わぬ拾い物にニンマリ
映画通 おもわず唸ってしまう演出のうまさ
脚本勉強 オードドックスから学び直そうと初心にかえれる
こだわり 秀作をみつけた喜びアリ
男が嫌い 不向(男ばっかり出てます)
冬が嫌い 不向(冬です。雪です。吹雪いてます。氷分厚いです)
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